第2章「ESCAPE」

....#65 砂の王


城への道を急ごうとしていたセシルの行く手に、ギルバートが待っていた。


「ギルバート王子…………」


セシルの前に一人で立つギルバートは、昨夜の彼とはまるで別人のようだ。
父と兄、そして大勢の家臣と、おそらくは恋人。
一夜にして訪れた悪夢のような不幸が彼を変えたのだろうか。


「バロンに、戻らなかったのですね」


ギルバートの口調は静かで、激しい感情はうかがえない。泣きはらした目ではあったが、自分をゆったりと侮蔑するような瞳は理知的で、今後のダムシアンをしょって立つ王としての自覚の片鱗を伺わせる。父親に似ている。

死に際のベルナルドを思い出して、セシルはふと気が遠くなった。


「ええ、ローザ達とファブールに行くつもりです。」


だが、平静を装って静かに答える。


「どうしてです?……まさか罪悪感だとはいわないでしょう?」


「……正直、私にも分かりません。」


セシルは自嘲的にくすりと笑い、そのままギルバートの横を通り過ぎようとした。


「ファブールには、火のクリスタルが、ありますよね」


きっぱりした調子の言葉に、驚いて立ち止まる。
振り返るとギルバートは挑むような目をしてこちらを見ていた。


「僕も、ファブールに行きます」


とても、強いまなざしだった。


「あなたの国は、ファブールのクリスタルも狙うのでしょう?」

 もう、争いは見たくない。あなた方の、好きにはさせない。」


それは、憎しみだろうか?
それとも願いなのだろうか?

ギルバートは旅立つことを決めていた。



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