第2章「ESCAPE」

....#54 青


覚えているのは、カインの瞳。
寒い海のような深い彼の青を、ただとても綺麗だと思って眺めていた。


「ローザ……お前……」


カインは怒っているのだろうか、そして、ここはどこだろう。


「……無茶も、いい加減にしろ」


途切れがちに呟いた言葉はきついが、彼は怒ってはいないようだった。
背に柔らかい感触、見覚えのある天蓋が目に入り、ここが元居た部屋であることを知る。

全て夢だったのかと尋ねたら、カインは答える代わりに彼女をきつく抱きしめた。カインはどうしてしまったのだろうかと、その短い金髪に手を飛ばす。私が勝手に部屋を飛び出してしまったから?

彼女の手首には、掴まれた指の形に赤い血がこびりついていた。
これは、セシルの……。


そうか。


「…………」


「……夢じゃ、ないのね」


「…………ああ」


「…………」


「…………もう全部終わったから、しばらく眠れ」


「……カインは?」


「ここにいる」


セシルのことは聞けなかった。
彼はきっともう、ここには居ないのだろう。


「……うん……」


今はただ、この暖かさにすがって眠りたい。






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