第2章「ESCAPE」

....#5 招かざる来訪者(2)


「なんだ貴様……っ! な、は、ハイウインド大佐殿……」

振り返った兵士はぱっとカインの顔を見て顔色を変える。ああ、こういう奴はどうにも好きじゃないと、カインは眉をひそめる。貴族軍人の多い禁軍兵には特に多いタイプの人間……階級章を見てころころ顔色を変える連中とは話をするだけ不愉快だ。

「悪いが、ここは俺の知り合いの家でね、用事があるから今日のところは引き取ってもらえるか?」

「いえ……しかし、これは陛下直々の任務でありまして……」

「あ? なにか言ったか?」

「ですから……っ! うわっ、な、何を……!」

「だから、これ以上、何かあるか?」

ローザやメアリに何か偉そうなことを言っていたのだと思うとイライラして、それ以上口をきかずに勤務服のスカーフを掴んで乱暴につまみだした。男達は恨みがましく彼を睨むが、知ったことか。

そそくさと退散していく兵達を見送っていると、メアリがほっとした顔で横に立った。

「悪いわね、ハイウインド大佐」

「うわ、嫌味……助けてやったのに」

「ごめんごめん、ありがとう。感謝するわ」

苦笑するメアリと共に改めて玄関に入ると、ローザが階段を下りてくるところだった。ローザはカインの顔を見てほっとした顔で笑った。

「カイン、無茶!」

「あのなあ、お前に言われたくないの。仕方ないだろあの場合」

「なんかこう、私情がこもってませんでした?」

「近衛兵ってみんなアイツの部下だと思うと何かムカつくんだよな」

「アイツって? カドモスさん?」

「違うわよローザ、この人が嫌いっていったら、ボルドウィンの御曹司でしょ」

「とにかく、こうなったからには詳しく話を聞かせてもらうからな」

ローザの表情がぱっと曇り、それから彼女は小さくごめんと呟いた。

それから、彼女の行き当たりばったりな説明をカインが理解するまでには随分時間がかかったが、彼女の語った内容は予想もしなかった意外なものだった。



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