第2章「ESCAPE」

....#43 血の邂逅(2)


聞いた瞬間は幻聴かと思った。
なぜならその声は、とてもよく知った声であったから。

重い足を引きずるように出口を目指すセシルに、ふいに投げかけられた声……そこに人がいたことに、自分は気付かずにいたらしい。

でも、ああ。

ここに彼女が居るはずはない。

なぜ、どうして、君がここに?
理解できない状況に投げる疑問符が心を惑わす。
だが、彼女はここにいた。


「…………!」


ふわふわと膨らんでもつれた豊かな金の髪、この惨状を見ていたのであろう疲れ切った瞳を見開いて彼を見ている。この土地の人々が身につけるような、ゆったりとしたドレスを身につけた幼なじみ……驚いているのは彼女も同じようだった。


「…………ローザ……」


なぜこんな所に彼女が? けれど、ローザの姿を見つけたとたんそんな疑問は脇に追いやられてしまったようだ。いや、そうではない。そう、何も考えられない。

この、僕の戦場で。
ローザが泣いている。

白い光が目の奥を突き刺す。たぶんそれは戦慄。
何かが、崩れはじめた気がした。






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