第2章「ESCAPE」

....#42 血の邂逅(1)


時は止まっているかのうようも思えたが、しかしそれは確かに今この瞬間を過ぎ去りし過去として押し流して進んでゆく。アンナの命はたった一本の矢に容易くかき消され、ギルバートの慟哭はやがて息苦しげなあえぎに変わる。

この部屋に足を踏み入れて、いったいどのくらい時が過ぎたのだろう。
カインとリディアは無事だろうか。ダムシアン王や王子、部屋に案内をしてくれた警備兵は? 婚礼の準備に追われていたあの大勢の使用人の人たちは?


「…………」


この部屋は確か、大広間。
今は……瓦礫と、動かない人の部屋。
ただ悲しく、ただ恐ろしく、助けを求める遠くのうめき声も、今のローザには耳を塞ぐしかなかった。

やがて、城の奥から静かな靴音が聞こえる。この惨状の中をゆっくりと、こちらへ近づいてくるようだ。誰だろう、味方だろうか。それとも……


「…………あ……」


ゆらりと現れた、背の高い華奢な身体に、赤い軍服、そして、長い髪。
我が目を疑うけれど、見間違うはずがない。


「……セシルっ……」






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