第2章「ESCAPE」
....#44 血の邂逅(3)
セシルははじめ、ぼんやりと不思議そうなまなざしでこちらを見た。 それは、いつもの彼よりもずっとあどけなくさえ見えるような表情で、返り血を浴びた白い頬に乱れた長い髪が無造作にかかって……彼は確かにセシルだったが、まるで別人のような様子だった。 手にした長剣は血まみれで、柄をつたって白手袋の手のひらまでもが血の色に染まっている。それが大勢の他人の血であることは、火をみるよりも明らかだ。 ローザと目があってから随分遅れて、セシルが驚いたような色を見せる。ふと見えた彼女の知るセシルの顔に、ローザの唇は思わず言葉を紡いだ。 「……どうしてっ?!」 責めるような響きを含む言葉に、セシルの表情が硬くなるのがみえた。でも、もう、見てしまったのだ。自分は。 アンナの未来を奪ったのは彼と、そして、自分の国だ。 「ねぇ……セシル……どうして、どうしてアンナさんが死ななきゃいけないの?」 「もうすぐ、結婚するんだよ!」 「ねぇっ……!」 「こんなの嫌よっ!!」 激情はただローザを翻弄する。 どうして、どうして! これでは子供の癇癪と同じ、でも……本心だった。情けないけれど、わめき散らすうちに悲しみが波のように押し寄せ、涙が溢れた。そう、悲しい。 とても悲しい。 |