第2章「ESCAPE」

....#40 エイリ


城内外のダムシアン兵はおおよそ倒され、生きていても動けないか、戦意を失って怯え隠れていた。美しかった城も、なんとか城としての体裁を残すのみである。

惨劇を見下ろすエイリは勝利の確信と共に退却の命令を出す。
三隻の飛空挺のうち、一隻が地上に降りて戻ってくる兵達を迎え入れた。まだはっきりとした報告は無いが、死傷者も随分運び込まれているように見える。ダムシアン側の抵抗はそれだけ必死のものだったに違いない。


「…………」


自ら手を汚さないエイリは、悲しげな顔で城門前に点々と散らばる兵士の亡骸を見つめていた。

彼は戦えない訳ではない。空軍新設と同時にセシルの副官になる時、彼との任務の中で自分を決して戦場に出さないことを、彼から密かに言い渡されていたのだ。



 「どうしてです? 自分は確かに参謀向きですけど、戦闘が出来ないわけでは……」


 「……僕の部隊に、絶対死なない部下が欲しいんだ」


 「…………大佐……」


 「馬鹿げてるかな?」


 「…………」


 「……わかりました、それでいいです」


 「……ありがとう」




『……エイリ?』


無線機から突然飛び込んできたのは疲れた様子のセシルの声。まだ城の中にいるのであろう、ノイズが酷い。


「隊長!」


『…………終わったから』


どこか、恐いものを見た後の子供のような、幼い頼りない声が聞こえてくる。エイリは、安堵を隠せない様子で息をつく。セシルはいつもこうだった。それをよくわかっているエイリは、わざと普段より優しい調子で語りかける。


「お疲れさまです。皆戻ってきていますよ、はやく帰ってきてください」


『……うん』


くぐもった声が短く響くと、プツリと通信は途絶えた。






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