第2章「ESCAPE」

....#38 惨劇の広間


どのくらい隠れていたのだろうか。時間の感覚は不確かでよくわからなかった。深夜なのだろうか、月がまだ高い。

再びの静寂が辺りをつつみ、ローザは恐る恐る立ち上がった。


(終わったのかしら……)


注意深く城内を伺うが、先ほどまでの喧噪は感じられない。セシルは?
そして、アンナはどうしているだろう。無事だろうか。


そっと足を踏み入れたダムシアン城内は、まさに惨劇の後だった。
大理石の床には累々と続く人間らしき物体……ああ、あれは……


死体なのか。


「…………」


怖い。生きている者の姿がほとんど見えない。
わずかに生き残った様子の者も傷を負い、半死半生のようだった。
バロン兵の姿も見える。壊された扉、崩れた壁、未だ漂う硝煙と、埃と、むせるほどに血のにおい。


「……ひどい……」


目を覆いたくなる惨状に目を伏せる。気分が悪かった。
やっぱり信じられない。


「…………セシル……」


兵達から目を背けて、奥の間を目指す。扉は無惨にこじ開けられ壊されており、中に入ると間もなくうめき声以外の人の声が聞こえた。


(……生きてる人……?)


声の方向におそるおそる足を進める。
眼にはいったものは、淡い色の金髪。見覚えのある優しい後ろ姿だ。


(ギルバートさん……?)


そう思って近づこうとした、刹那。


「…………!」


歩みが止まった。それ以上、進めなかった。

枯れた声ですすり泣くギルバートがその腕に抱いているのは……ぐったりと動かないアンナ、その背には、深々とバロン軍の弓が刺さっていた。






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