第2章「ESCAPE」

....#37 最後の刃


ギルバート達が居た王の間から広間を抜け、回廊を経て中庭へ。地下施設の無いこの城では、それが唯一の逃げ道だった。
混乱の中を走り抜ける。傍らで走るアンナの手を握りしめ、城と父と兄を、見捨てるのではないと自分自身に言い聞かせる。

目に入るのは瓦礫の山と、忠臣の亡骸。しかし、それでも怒りより恐怖が先に立つ自分自身が情けない。

(兄上……)

兄が生きて戻ってくれることを信じたい。子供の頃から文武共に秀で、勇敢で賢い。彼こそがこの国の王にふさわしいのだから。
自分だけでなく、父も民もそう思っているだろう。

けれど……ならば、どうして。
どうして自分は逃げているのだろう。

「…………」


王となるべき兄を守るべきなのは、たぶん、自分なのに。


「ギルバートっ! あぶないっっ!」

突然アンナに突き飛ばされ、ギルバートは姿勢を崩した。驚き、倒れながら彼女に手を伸ばす。


「アンナっ?」


アンナは、そのままギルバートに覆い被さるようにして倒れ込む。抱き止めようとすると、背中に突き立てられた矢が目に入った。


「…………?」


「……あ……」


「アンナぁぁっ!」


ぬるりとした血の感触をアンナの背に感じて、ギルバートは半狂乱になって恋人の名を呼ぶ。

その叫びを聞いたかのように、まもなく戦いは終わりを告げた。






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