第2章「ESCAPE」

....#28 後悔


なんという失敗。二人居なくなってがらんとした部屋で、カインはひとり後悔のなかにあった。

ギルバートが頼むと言い残したアンナが部屋を飛び出し、あろうことかローザまで追いかけていってしまった。砲撃は止まない。背筋をながれる冷や汗を感じながら、カインはひとり窓の外と階段へ続く扉を交互に見ていた。

すぐに追おうにも、ここにはリディアもいる。先日の事件で焼かれた村の子供である、砲撃はどんなにか恐ろしいだろう。ここは離れで、攻撃は加えられていない。リディアをここから動かすわけにはいかなかった。今は……追えない。

「……っ! 馬鹿がっ!」

思い切り石の壁を殴る。拳に血がにじみ、鈍い痛みが腕を走る。馬鹿は自分だ。なぜ二人を止められなかった? 構わずまた壁を打つ。全く、間抜けにも程がある。

(くそっ、冗談じゃない!)

と、止まない砲撃の雨の中、先ほどまで布団にくるまってただ震えていたリディアがちょこんと顔を出して、不思議そうな顔でカインを見つめている。


「…………?」


カインは思わずその幼い顔に目を奪われた。先ほどまでの怯えようとはまるで別人のよう。見開かれた大きな瞳は夜空のように澄んだ黒で、ぎょっとするほど年不相応の大人びた色をみせる。

「カイン」

「どうした? リディア」

「お姉ちゃん、さがしてきて」

「お前……」

「さがしてきて」

「だがな、お前を連れて行くわけにはいかん」

「まってる」

「リディア?」

「お姉ちゃん、ないてるよ」

「…………」

「ね」

「ああ」

予言じみたリディアの言葉に背中を押されると、あとはもう気持ちが止まらなかった。居ても立ってもいられずに走り出す。煙る螺旋階段を駆け下りて、すっかり破壊された庭を走り抜け、彼女を名を叫んだ。

(ローザ! どこにいる!)

しかし、こたえる声はない。





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