第2章「ESCAPE」
....#28 届かぬ声
誰も居なくなった王の間で、ギルバートはぼんやりと立ち尽くしていた。 「アンナ……僕だけ逃げるわけには……」 あたりには火薬のにおいが充満し、砲撃は続く。 彼の目の前で、ダムシアン城の優美な外観が、無惨な瓦礫へと変貌してゆく。 ギルバートはひとりうつむき、床を見たまま一人つぶやいた。 「血を流して良い理由なんて、無いではありませんか……」 アンナの所に行きたい。でも、そうはできなかった。自分の父と兄を見殺しには出来ない。しかしひとり剣をとって戦うほどの勇気は彼にはなく、逃げ出すことも出来ないまま、ただそこに立ちつくすことしか出来なかった。 なんて、なんて自分は弱いのだろう。 |