第1章「A Day of spring」

....#37 近衛兵長ジェネラル(3)


ローザの気性はよく理解しているつもりだ。
そして、あのジェネラルがどういう男かも嫌というほど知っている。
もう迷っている暇は無いと思うと同時に、セシルは口を開いていた。


「そのへんにしたらどうです?」


言いながら、ローザの方は見ないようにしてジェネラルの前まで進み出る。
どうせ口を出すのなら遠慮はいらない。
セシルは、わざとジェネラルの神経を逆なでするような嫌みな笑みを浮かべる。久しぶりに帰国するなりさんざん振り回されたのだ。いい加減腹も立っている。


「セシルっ! どうしてここに」


「あなたが私に無断で赤い翼を動かしたからですよ」


うろたえていたジェネラルだったが、セシルの態度が頭に来たのか、構えた銃を下ろしながら尊大な態度で彼を睨んだ。


「……急な任務だったのだ。将軍殿は休暇中であると陛下にも伺っていたのでな」


「別に気にしませんよ。ひとこと言ってくださればここまで出向く必要もありませんでしたのに」


言ってから、呆れたような顔で辺りを見渡す。


「しかし……随分荒っぽいやり方ですね、ここはバロン国内ですよ?」


「住民が抵抗したからだ。それに、武力行使も許可を得ている」


それを聞いたセシルは冗談でも言っているかのように大げさに肩をすくめた。


「あーあ、陛下も私に言ってくだされば良いのに……国内で空軍の評判を落とさないで欲しいですね」


「なっ……! 何が言いたい!」


ジェネラルに嫌われているのはもうずっと昔からのことである。
どうもこの大人げない先輩はくだらないことを根に持つ上にたちの悪い負けず嫌いで、子供の頃から目の敵にされているのだ。


「まあ……黙って見てようかと思ったんですが……そんな小さな子供まで手にかけるようじゃ、見逃せませんね」


「陛下直々の命令だぞっ!」


「わからない人だなあ。そんなことを言っているのではありません。あなたは任務を果たせばいい。しかし我々は軍人です。逆らわない市民を手にかけるべきではないのでは?」


ふっと真面目な顔で言ってのける。
言い返すことが出来なくなったジェネラルはいまいましげにセシルを睨んだが、セシルははやく帰れと言わんばかりににこりと笑った。


「それにもう、この街も戦えません。陛下のご意志に従うでしょう。これ以上の攻撃は不必要です」


息を呑んで見守るローザの視線を背中ごしに感じたが、今はとりあえずそれも無視した。
ジェネラルはしばらく恐ろしい形相でセシルを睨んでいたが、吐き捨てるように小さく舌打ちして身を翻すと、飛空艇に戻っていった。


夜の闇がすっかり辺りを包んでいる。飛空艇が去った後には、気味が悪いくらい静かな夜がそこにあった。


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