第1章「A Day of spring」
....#29 夜の入り口
軍用車両を出してバロンの街を抜け、ミストへの道を急ぐ。 都会の景色が郊外の住宅地に変わり、やがて家も見えない自然の中に入る頃、彼の休日の最初の日は暮れていった。 窓を開け、涼しい風に吹かれながら走っていたセシルは、燃えるような夕日が沈んでいこうとするのをちらりと見て、ため息をつく。 どうやら面倒が起こっていそうなのは、遠目に見える高原の街から煙が上がっていることからもわかる。ハイキング客もまばらな平日の空いた道で、セシルは改めてアクセルをゆっくり踏み込んだ。 急がなくてはいけない。 何のつもりで、それも国内の自治区に攻撃を加えているのかは知らないが、空軍の行動は自分の責任下にある。放っておくわけにはいかなかった。 結局、夜が来る少し手前に彼はミストの手前までたどり着き、そこで車を降りた。 車を降り、もう夕焼け空が藍に染まりそうな広いギア・ナ高地に降り立ったセシルは、不機嫌な顔で目前に迫った小さな街を眺めた。 煙の混じった空気はそれでも高原の心地よい冷たさを含み、柔らかな草と土の感触を靴越しに感じることができた。 辺りに人はない。 暗くなり始めている上に酷い煙でまともに見えないが、あの上空には彼の飛空艇がいるはずだ。 「……品の無いことで」 誰にともなく呟くと、手ぶらのセシルは、両手をポケットに入れて歩き始めた。 |