第1章「A Day of spring」

....#30 少女リディア


「あなた、名前は?  私はね、ローザ」


やっと少し落ちついたらしい少女に、ローザは尋ねた。


「…………リディア……」


不気味に砲撃の音だけが聞こえていた。
リディアと名乗ったその少女はローザに少なからず心を許したようで、涙の乾いた目で必死に今までのことを話し始めた。


「……それでね、おかあさんとおじいちゃんのうちに行ったの」


「おじいちゃん?」


「私のじゃない、ミストのおじいちゃん。ええと……ちょうろう」


「長老……そっか、ミスト長老ね。それでそれからどうしたの?」


「おじいちゃんの家に……赤い服を着た人がたくさん来て……それから……お母さんとどこかへいっちゃったの」


「赤い服…………って」


リディアの話にローザの目の色が変わる。
赤い服とはすなわち、バロン空軍の軍人達のことだ。


(セシルは…………)


ローザは思わず身を乗り出す。その中にセシルは居たのだろうか。居るはず無い、でも居なければおかしい。


相反する確信に乱れる心を思い出して、気がつけばローザはリディアの肩をつかんで、早口にまくしたてていた。


「どんな人だった? 背の高い……長い茶色の髪のひとじゃなかった?………軍の中ではすごく目立つんだけど……見なかった?……その中に居なかった……?」


急に肩をつかまれてリディアは驚いて目を見開く。それから、困った顔をしてわからないと告げた。
ローザははっと我に返ると、申し訳なさそうな顔で肩を落とした。


「……そっか…………そうだよね、ごめんね……」


「お姉ちゃん……ごめんね?」


そう言ったリディアはどこか静かで大人びて見えた。


「ううん、私こそ、ごめんなさい。砲撃が止んだら、いっしょにお母さんさがそうね。大丈夫、きっと無事だよ」


「うん……」


二人はそこでそのまま、夜を待つことにした。


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