第1章ミスト編

....#5 ミストの誇り



街に人影はなく、風に吹かれた木々の影だけが音もなく揺れている。

飛空艇が白い船体を晒す広場で、ステラは静かにジェネラルに向き合う。
はじめに言葉を発したのはジェネラルのほうだった。


「では、申し伝える。我が言葉、王の言葉として受け止めよ」


「…………」


「今日限り、この街の自治権を剥奪する。自治議会を直ちに解散せよ」

ステラは一瞬目を見張る。
それを見てジェネラルは、ますます暗い優越を振りかざした高圧的な笑いを浮かべて続けた。

「たった今からミストはバロンの直轄地となる。明日にも官吏が派遣されるだろう。抵抗しなければ住民の暮らしは今までどおり保証する。以上、住民は全員心して従うように」


しばしの沈黙。しかしステラは顔を上げる。


「……この街の歴史をご存じですか?」


「なんだと?」


「聡明なるルクスフォード陛下はここの者がどういう人間かご存じのはず。
ミストの人間は権力に屈しません。どうぞおひきとりください」


淡い高原は五月の日差しの中。
長い歴史の中で何度と無く支配者に対してミストが血を流し、それでも言い続けてきた言葉である。予想していた反応にジェネラルは驚いた様子もなく、口の端をゆがめて笑った。


「ミストの人間は歴史に学ばぬようだな」


ジェネラルは、自分を睨み付ける美しい女を一瞥して、手にした無線機で砲撃の命令を船に告げる。


「……やめて……!」


着陸していた飛空艇は、ゆっくりとその身体を空へと預けた。



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