第1章ミスト編

....#12 ミストドラゴン(1)



辛そうな様子の母に、後から後から涙があふれる。
ステラは困ったように目を伏せた。
それから、ゆっくりと頭上の竜を見上げる。


「リディア……」


「おかあさん」


「……いい子だから……泣き止んで……」


かつて、ミストドラゴンがこの地の守り神として王家の横暴を退け続けていた時代、空は翼あるものの世界だった。

しかし、今ステラの目の前で、空を汚すこの存在、赤い翼。
鉄の翼を持ち、火を吹き、自由に空を駆ける。

もはや人は、畏れを忘れてしまったのだろうか。

召喚士が交わる幻の世界の住人には、大地を焼き尽くす炎や凍てつく氷、 闇を切り裂く裁きの雷を司る者も存在するが、彼女ら一族が長く仕えてきたミストドラゴンはそうではない。

緑の霧はどこまでも優しく、慈悲深く、この地を護り続けてきた。
炎にその美しい鱗を焼かれ、苦しむドラゴンの姿に、ステラは敗北の予感を見ていた。


つまりは、死の予感。


泣きやまぬわが子の柔らかい髪を撫で、遠からぬ別れに唇を噛んだ。





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