第1章ミスト編

....#11 霧の伝説



リディアの生まれた家には、不思議な言い伝えがある。
この村をずっとずっと昔から守っている、霧の竜の話。母はよく話してくれた。

母も、祖母も、そもまた祖母も、ミストドラゴンと共に生きてきたのだと。
その竜を、リディアはまだ目にしたことがない。


「リディアちゃん?」


優しい、ローザという名のその人が自分を覗き込んだ。
辺りはもう夜。砲撃が止んだのを確認して二人は結界の外に出た。

ここは本当に自分の知るミストなのだろうか。
家々が燃える炎に照らされた街は、あまりに無惨だ。


「…………」


この村を守るドラゴンの話なんて、嘘だったのだろうか。
広場へ続く道をたどりながら、リディアは思った。

ミストドラゴンは助けてなどくれないではないか。

そんな風に思った刹那のことだ。
むせるような熱い空気の中、ゆく手から吹いた吹いた風がひやりと冷たくて、ふと顔を上げた。


「あ!」


そこには、言い伝えにある姿そのままの、優美な霧の竜。
ミストの守り神。リディアは思わず駆けだしていた。きっとあそこには母が居る!


「おかあさんっ!」


しかし、広場に飛び込んだとたん彼女の一瞬の希望が空しいものであったことを知る。
地に膝をつき、苦しげに息をする母。その髪は鮮やかな緑に染まっている。
どうしたんだろう、リディアが駆け寄っても、母は嬉しそうな顔はしてくれなかった。
目を見張り、それから、悲しげにリディアを見る。

竜は弱っていた。


「隠れていなさいと、言ったでしょう…………リディア」


「……おかあさん…………」



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