第1章ミスト編

....#10 召喚士(2)



体中を冷たい霧がすり抜けていく。
指先まで冷たい緑に染まるような不思議な感覚、輝くような白い緑。
ステラは目を閉じた。

やがて古い古い血の盟約に従い霧のドラゴンが姿を現す。
玉虫色ににぶく光る鱗、光の束のようにも見える背鰭……そして。

彼女ら召喚士は一生のうちに何度もその召喚の秘術を行うことはない。
あの竜は彼女の命、敗北は死を意味した。


「……これは! 」


ジェネラルは、見上げて言葉を詰まらせる。


「………竜……?」


この地を守る聖獣ミストドラゴン。

この世でないところから現れると云われるこの竜は、 街の歴史と共にステラの一族……召喚士と呼ばれる女たちによって密かに伝えられ、 この街を守り続けてきたのだった。


彼女らの存在は、半ば伝説めいた話として人々に理解されていた。
異世界の者と心を通わせる部族がいるということ。幻獣と呼ばれるそのものたちは、主と決めた召喚士にだけ力を貸すのだという。森羅万象を司る彼らの力は強大で、中には一国をも滅ぼす力を持つものも居ると伝えられる。

霧から生まれた竜は、鱗の一枚一枚までが淡い灰緑で、光を吸い込むような鈍い光沢を放っている。

緑色の目がジェネラルを見下ろした。


「召喚士……実在するとはな。

 しかし、そんな手品まがいの化け物など、赤い翼の敵ではない」


戦いの始まりだった。
竜は、まるでステラの意志そのものように飛空挺に対して攻撃を仕掛けた。



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