第1章ミスト編

....#9 召喚士(1)



「何度申されても……答えは変わりません……」


爆風に乱れた黒髪をかき上げて、ステラは苦しげに呟いた。
今ここに立っているのがステラでなくとも、ミストは屈する道を選びはしない。

……それでも、街が破壊される様を見るのは辛かった。


「面白い」


言葉の直後、再び爆発音。


「わからんな……なぜそうまでして独立を望むのか?」


嘲笑うジェネラルを、ステラはそれでも毅然と睨みつける。


「あなたには解りません。これは、われわれの祖先からの意志です」


「ばかばかしい」


ジェネラルは苛立ちを隠せず、懐から拳銃を出してステラの眼前に突きつける。


「そんなものにすがって生きているから、この様な目に遭うのだ。貴様らの歴史は常にそうだったはずだ。虐げられながら生きる道を、あえて再び選ぶというのか?」


ミストの街が燃えている。
たった数発の砲弾が、数百年の歳月をいとも簡単に壊してゆく。

歴史は繰り返す。
ミストはまた拒む道を選ぶのだ。


「虐げられて、生きる……」


目の前にある銃口を無視して、ステラは黒い髪を揺らし立ち上がる。


「そうかもしれません…………でも」


「それでも……守ってきたのです。この街を……私達、ミスティアの召喚士が!」


この愚かさは祖先の誇り。
信じるとは、つまりそういうことなのだ。


「…………?」


「ミストは守ります」


そう言うとステラは首飾りから何かを外した。
見るとそれは、小さなガラス瓶。そして、細かい銀細工の施されたそれを開ける。


「……召喚士だと!?」


驚愕の表情で見つめるジェネラルの前で、瓶の中からは緑色の煙ががあふれ出す。
小さな瓶からあふれ出る煙は尽きることなく、見る間に視界を覆い尽くしていった。

負けるわけにはいかない戦いだった。
あまりにも多くのものがステラの肩にかかっていたから。
街の平和、皆の命、そして……娘の未来。

勝たねばならない。
想いはミストドラゴンにも伝わっているはずだった。


「お願いします……あの子の……」


「リディアのためにも」



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