第2章「ESCAPE」

....#7 ハーヴィ将軍


ローザ達と後ほど待ち合わせる約束をして、カインは城を訪れた。

休暇中であるはずのセシルだったが、彼の部屋にその姿はなかった。
ミストではセシルが一緒だったと聞いたので、バロンを発つ前に会っておこうと思ったのだ。だいたい、現場に居合わせておいてそれきり何日も音沙汰がないとは何事だ。

仕方なく空軍本部へ足を向けると、なにやら騒々しい。走り回る士官を捕まえて聞いてみると、どうやら新しい任務の準備に追われているらしい。なるほど、セシルが顔を見せないわけだ。

「セ……いや、ハーヴィ将軍は?」

「閣下ならドックにおられるかと思いますが」

飛空挺ドックは急な整備に追われているらしく、騒音と喧噪がこだまして、自分の声さえまとのに聞き取れないような有様だった。
見ると、突貫工事で整備が行われているのは、先日帰還したばかりのレッドバロン艇。

(セシルがまた出るのか……?)

出入り口の脇の邪魔にならないところに立って、セシルを探す。赤い服ばかり、しかも皆忙しそうに歩き回っていて、遠目にはどこにセシルがいるのかよくわからない。


「あぁ、カイン?」

躍起になって探していると、金属音に紛れてセシルの声が真横から飛んでくる。振り向くと、セシルはすぐ横に立っていた。

「セシル」

「なんか青いのが紛れてるから、目に付いたよ。迷子にでもなった?」

冗談を言いながらにこりと笑った表情がすぐに消えて、なんとなく表情が白々しい。いかにも勤務中、そして任務前といった様子で、カインもなんとなく今ローザ達の話をする気持ちにはなれなかった。


「ああ、すまんな。すぐ行く」

「何か用事でも?」

「……いや、別に。迷子になっただけだ」

「そう」

そっけない挨拶と共に去っていくセシルの後ろ姿を目で追って、ため息をひとつ。
セシルにとって、軍人としての仕事が限りなく彼の全てに近いことは解っている、が、ローザが軍に追われていると知ったら、あいつはどうするのだろう。


(…………なんだ? 俺は)


ふと、苛立つ自分を自覚する。

たとえセシルが忙しくしていなくても、自分が二人を連れてファブールへ行くつもりなのだ。それでいいではないか。

夕方には列車に乗るつもりだった。足早にドックを後にし、城を出る。
胸につかえる塊は、つまり自分の狭量さのせいであることを認めたくはない。心のどこかでローザはセシルに救ってもらいたがっているのではないかと思ったのだ。

それならばそれでも良いと思うことは半分虚勢で、セシルに一向にそのつもりがないようにみえることがさらにむかつきに拍車をかける。

(……あーあ、俺もメアリを笑ってられないな)

昼下がりの道を旧市街へと下る。手早く用意をして迎えに行かなければ、急げと言ったカインの方が遅刻してしまいそうだった。



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