第2章「ESCAPE」

....#59 朝もやの決意


地平線の東の端に光の帯が滲む。もう、夜明けがくる。

セシルが手にしている無線機が、さっきから何度も彼の帰還をせかしている。引き上げの準備が出来ているのだ。しかし彼はそれに答えようとせず、もうじき太陽にとって変わられるであろう満月を見上げたままだ。

「……いいのか? 帰らなくて……」

「…………」

セシルはそれにも答えず、淡く滲みはじめた月を見ている。
澄んだ冷たい大気のせいか、ひとまわり大きく見える満月だった。

しゃがんだ姿勢からセシルを見ていたカインが、ため息をついて視線をそらしたその少し後、セシルが懐から小さなナイフを取り出して、鞘から抜くと、手に持っていた無線機を地面に落とした。


「なっ……、セシル!?」


彼はそのナイフで、自分の髪を無造作に切り落としていた。
赤茶色の髪の束が目の前に次々落ちてくるのを、カインは驚いて眺めていた。

やがて、すっかり切り終わると、セシルは肩に落ちた髪を払い落としながら深く息を吸う。


「…………すっきりしたっ」


そう言うと彼はカインの方をみてにっこり笑った。肩上で不揃いに短くなった髪が揺れる。少しだけ幼い頃を思い出させるセシルがそこにいた。



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