第2章「ESCAPE」

....#57 寝顔


セシルは、しんと静まりかえったダムシアン城の崩れ落ちた回廊を通り抜け、足音をたてないようにそっとローザ達がいる尖塔へと足を踏み入れた。あたりは薄明るいが、砂漠はまだ目覚めない。

この塔に彼女らが居たなんて。
最上階の扉をそっと開け、足音をたてないように静かに足を踏み入れる。

来客用に用意された豪華な部屋の広いベッドで、ローザとリディアが眠っていた。静かに歩み寄ると、泣き疲れた様子のローザの表情は子供の頃のままで、体をすくめて寝入っている。小さいリディアの手が、守るようにローザの肩にかけられていた。

「…………」

どんなにか恐ろしかったことだろう。
取り乱し泣き叫ぶ昨夜の彼女の姿を思うと、心が軋んだ。

無造作に乱れた金茶の巻き毛、ほんの微かに震える睫毛。そういえば、なんだかとても懐かしい彼女の寝顔。子供っぽくて少しも悪意がなくて、見ているとなんだか可笑しくなってしまう。

そうだった。どんな辛い戦いの後でも、バロンに戻れば彼女はいつも平和の中で幸せに暮らしている。いつも自分を見つけて、まっすぐ走ってきて、そして、笑ってくれる。

失いたくない。

セシルは長い間そこに立ちつくしていたが、やがて静かに顔をあげ、立ち去った。



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