第2章「ESCAPE」
....#46 拒絶
途方に暮れた声音が頭上に落ちる。少し震えた、優しげな、確かにセシルの声……だけど、自分にさしのべられた手は血に濡れていて……反射的にもがいて、手首を掴んだ指をふりほどく。 「いやっ! さわらないでっ!」 セシルの優しい声がいやに白々しく感じられて、嫌悪感すら覚える。 その血の付いた手で、あなたは何をしたのだ。セシル! 砂と血の味がする床に突っ伏してただただ激情のままにしゃくりあげるローザに、彼女を見下ろすセシルの顔は見えない。けれど、しばらくの後に捨てるように落ちてきた言葉は、ローザを決定的に絶望させるに充分なものだった。 「……犠牲者がでるのは、当たり前だよ」 冷酷で艶やかな声、これがセシルなのか。では、では……自分の知っているセシルは? 心臓に冷たい矢が刺さったよう。息ができない。悲しくて苦しくて、いっそ夢ならばと思う。 けれど掌に刺さる尖った石のかけらが、これは現実なのだと彼女を突き放した。 やがて、セシルが背を向ける気配。黒い軍のブーツが石の床を踏んで、遠ざかり、立ち止まる。 「ギルバート王子ですね?」 |