第2章「ESCAPE」
....#25 想い
出会いは五年前。 早朝の水くみに赴いた涼しい井戸の傍で……天使が舞い降りたのかと思った。日に灼けていない真っ白な肌に、細い金糸のような髪。声を聞くまで若い女の子が立っているのだとばかり思った。 ギルバートは自らの身分を明かさず、ただ旅をしているとだけ告げた。どこへ行っても子供に好かれる優しい青年。いつも何かしら楽器を持ち歩いていて、そのどれをも巧みに操った。 優しいギルバート。 「あのひとは……恐がりなの」 奢ったところが少しもなくて、悲しい時はすぐ泣いて。 彼は今、あの砲撃の中。 「アンナさん?」 「かみなりだって恐がるのよ」 「アンナさん? どうしたの?」 知らず、アンナは立ち上がっていた。ギルバートは泣いているに違いない。 行かなければ。 ローザの声が遠く聞こえた気がしたが、構わず飛び出した。 |