第2章「ESCAPE」
....#24 夜空の中で
「隊長、いくらなんでも性急すぎます」 「無駄だよ。猶予は与えたはずだ」 『威嚇射撃、用意!』 『威嚇射撃、用意!』 暗い窓の外が一瞬光に包まれる。と、それを感じる間もなくやってくる爆発音。飛空挺に据えられている八つの砲門が交互に火を吹いた。 眼下に見えるダムシアン城の優美な尖塔が、彼らの目の前で轟音と共に崩れてく。操舵室はにわかに騒がしくなり、兵達はばたばたと戦いの準備に追われはじめていた。 「隊長?」 「……何」 「僕の嫌な予感が……当たらないと良いんですけど」 「大丈夫だよ、いつもと同じさ」 「……そうでしょうか」 「隊長! ダムシアン側は完全に臨戦態勢のようです。威嚇砲撃では埒があかぬかと思われます!」 状況を報告する部下の声を聞くセシルの顔から、すっと冷えるように表情が無くなっていく。 「……愚かな」 そんな上官の横顔を見て、エイリはそっと辛そうに目を閉じる。セシルはそれには気付かない。 「わかった。砲撃を止めろ」 「はっ」 「城内に入る」 セシルは席の脇に立ててあった愛刀を手に取り、眼下のダムシアン城に目をやると、ゆるりと笑った。 冷たく光る双眸。すでにそこにいつものセシルは居なかった。 「隊長……」 心配そうな声で彼を呼ぶエイリに、セシルはまるで無邪気な子供のような笑い顔をみせる。 「二時間以内に終わらせよう」 「……お気を付けて」 「艦を頼むよ、中佐殿」 「…………必ず、戻ってきてくださいね」 「……ああ」 セシルはそう言い残すと操舵室を出ていった。 |