第2章「ESCAPE」

....#20 不安の影


太陽が西の空に傾き始める頃、カインとリディアが戻ってきた。なんだかんだと珍しげなものを買ってきたようで、リディアはにこにこしながら部屋に入ってきたが、たくさん荷物を持たされたカインは不機嫌顔だ。だが、それが本当に不機嫌なわけでないことくらい話さずともわかる。リディアは、カインとも仲良くなったようだ。

「あーもう、まったく! 疲れたぞ! 俺は!」

「おかえり。どうだった? リディアちゃん」

「面白かったよ、お姉ちゃん」

リディアは、カインに買ってもらった物をベッドの上に広げてローザに見せた。色とりどりのガラス細工の小さな人形や、どうやって吹くのか解らない笛、はてはさらさらした砂漠の砂まであった。

「こいつ、ほっといたらロチェスターの水まで持ってきそうだったんだぞ」

ローザへの土産だとリディアが取り出した美しい布を広げて、似合うかと問いかけようとカインの方を向くと、彼はいつの間にか窓辺に佇んでいた。

燃えるような夕日に横顔を紅く染めたカインは、先ほどまでとうってかわって真剣なまなざしで遠くを見つめている。

「…………」

「カイン?」

「…………」

「ねえ、どうかしたのカイン?」

動こうとしないカインに、ローザが訊ねる。

「…………」

答えないカインの方に近寄って、ローザは自分も窓辺に立ち、燃える夕焼けの向こうを見ようとした。

遠くの空に、黒い陰が3つ見える。無論、鳥などではない。

「あれって……」

「ああ……」

「……! まさか……」

「いや、違う。追手じゃない。数が多すぎる」

「じゃあ……」

「わからん。なんのつもりだ?」

言いながら、カインは先日の空軍本部を思い起こす。急な任務とは、これのことか。三機のレッドバロン……空軍第一師団、つまり、司令官はセシル・ハーヴィ。

言った方がいいだろうか。迷った刹那、いやに性急なノックの音が部屋に響いた。



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