第2章「ESCAPE」
....#18 買い物
「ね、ね、あっち!」 シャツの裾を引っ張られて、カインは重い足取りで少女に着いて歩く。迂闊だった。子供だと思って侮っていた。全く、女に「なんでも買ってやる」なんて言うもんじゃない。 「ね、カイン!」 「はいはい、お前な、買い物につき合ってもらっている分際で、せめてお兄さんとくらい言えないのかよ?」 「おにーさん!」 「うむ」 「じゃ、カイン、向こういこ」 「…………」 ダムシアンに着いて、リディアは急に元気になった。街も空も、バロンとはあまりに違うのが効いたのだろうか。疲れて眠っているローザのとなりで、外を見てうずうずしているリディアを連れ出したところ、見違えるように楽しそうな表情で彼の隣を飛び跳ねていた。 バロンで会ったときは彼が軍人の格好をしていたこともあって、殆ど口をきこうとしなかったリディアだったが、いったん気を許すと素直で少しだけ我が儘、ネックレスに付けられた小瓶の意味を聞かされていなければ、どこも特別には見えない。 「うわぁ、鳥!」 「ああ、チョコボの雛だな」 「ちょこぼ?」 「ああ、この雛がでかくなると馬ぐらいになる」 「へえぇ、おうまさん」 「で、背中に人を乗せて走るようになるんだよ」 「うわぁ!」 「あぁ?」 「欲しい」 「駄目だ」 「どうして?」 「これからまだ旅を続けるんだ。連れて行けないだろ?」 「…………」 「ああもう、そんな顔するな。他のものだったら何でも買ってやるから」 「うん……」 そもそも、ダムシアンに長くとどまるつもりはなかった。目的地はあくまでもフブリで、一日も早くそこに着く方が良いからだ。だが、カイポの駅で一緒になったアンナという女の申し出を無理に断らなかったのには、ローザに押し切られただけじゃなく彼なりにも一応理由はある。 この夏の国で、王子の結婚式という晴れやかな行事を目にすることが、二人の気持ちを明るくさせてくれるのなら、二、三日の滞在は構わないと思ったのだ。 実際、アンナと親しくなったらしいローザの、年頃の少女らしい花嫁への羨望の言葉や、この、土産物を山ほど抱えたリディアのにこにこ顔を見れば、これはこれで良いものだと思う。 「おいリディア、もうじき夕方になる。帰るぞ」 「えー」 「ローザが待ってるだろ、土産を渡すんじゃなかったのか」 「あ、うん!」 「ほら、そっちの荷物も貸してみろ。持ってやるよ」 「はーい」 「違う、ありがとう、だ」 「ありがとう」 「うむ。急ぐぞ」 しかし、カインの安堵はまもなく後悔にとってかわられることになる。 長くなった影を追うように、ふたりは今夜の宿であるダムシアン城へと急いだ。 |