第2章「ESCAPE」

....#13 大陸縦断鉄道(3)


「えーっ! 結婚するんですか!」

ローザが大げさに驚く。アンナはにこにこしてうなずいた。
彼女は、結婚式のためにこれからダムシアンに行くのだという。

「やっとね、父が許してくれたの。」

ウェーブのかかった髪は肩につかない程の長さのきれいな赤毛で、褐色の肌にくっきりとした顔立ちが印象的だ。女性らしい幸せを全身で体現したような美しいアンナを、ローザは憧れを持って見つめていた。

「いいなぁ……およめさん。私もなりたい!」

「……おまえな、料理とか出来るのか? ……およめさんって……」

「しつれいなっ! 出来るわよ! うちじゃメアリのが上手いから作らないだけ。」

「下手ってことだろ?」

「む。カイン、きらいっ!」

「ふふふ、ローザちゃん、きっとかわいいお嫁さんになれるわよ」

「嫁ってことならリディアのが将来有望だと思うぞ、俺は」

「もう!」

「あ、そうだわ、みなさんダムシアンではゆっくりなさるの?」

怒りが醒めない様子のローザをなだめるように、アンナが話を変える。

「もしよかったら式に出席して下さいな」

そう言ってにっこりと笑った。つやつやと輝く表情に、ふくれていたローザはぱっと嬉しそうな顔をして立ち上がった。

「わあ! 行きたい行きたい! ねえ、良いでしょ? カイン?」

「……おまえな……」

カインは恐い顔でローザを睨んだがローザは止まらない。

「お願い! ね、リディアちゃんも見たいよねえ花嫁さん」

言われたリディアも、つられたように笑顔をみせた。

「うん……みたい!」

リディアが笑って喜ぶ様子を横目に、カインは呆れた顔で頬杖をついて窓の外に目をやった。

「……けっ……勝手にしろ」

「やった!」

砂漠の空は突き抜けるように青く、幸せそうなアンナと共に行く旅は、皆の心を少し明るくするようだった。

カイポで出会ったという婚約者との話をアンナは楽しそうに話し、ローザもリディアも夢中で聞いた。砂漠の人間らしく少しだけ灼けた肌をした彼女の笑顔は、とても眩しかった。



Home | Back | Next