第2章「ESCAPE」

....#12 大陸縦断鉄道(2)


汽車がゆっくりとスピードを緩める。

バロンを出てそろそろ丸一日。砂漠での唯一の停車駅である、カイポについたのだ。
ダムシアン領のカイポはオアシスの街であり、交易で栄える自治都市だ。位置的にはバロンとダムシアンの中間にある。

たくさんの荷物を持った商人たちがホームに見えた。きらきらしたアクセサリーを売りに来ている人もたくさんいる。にぎやかな感じの街だった。

「うわぁ、すごいねリディアちゃん」

「おいおい、くだらない土産は買わないぞ」

カイポでの停車時間は一時間ほど。ドアが開いた途端がやがやと多くの人が下車していき、蒸し暑い空気が開いたドアから空調の効いた車内に入ってきた。それは砂っぽくて、異国のにおいがした。

バロンから汽車でたった一晩で、もう見知らぬ土地なんだなと思いながら、ローザは窓の外を見ていた。初めて見る干しレンガの町並み。この暑い土地を少し散歩したかったが、時間がないからやめろと言われて素直に諦めた。

退屈な停車時間をおしゃべりで潰すうち、汽車はがたりと音をたてて動き始め、カイポの駅のホームをすべりぬける。ローザが遠くなっていくまぶしい太陽の土地の街を名残惜しそうに見送っていると、車両をつないでいるドアが がらがらと開いた。

赤毛の女性がきょろきょろしながら入って来る。あまり大きくないボストンバックを一つ持って、どうやら席を探しているようだ。

「……あの、すいません、ここ、開いてます?」

しばらくして、その女性はローザたちの所にやってきてそう声をかけた。向かい合わせの四人席には、ちょうど一人分の空きがあったのだ。

「あ……どうぞどうぞ、開いてますよ」

ローザがそう言うと、

「ありがとう」

その女性はそう言って人なつっこく笑った。


そのひとの名は、アンナという。

ローザたちはすぐにアンナと親しくなった。快活に話し、にこやかに笑うアンナは、優しくて明るい感じの人だった。



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