第1章「A Day of spring」

....#5 渡り廊下にて


「よお、元気そうだなセシル」


エイリと別れ城へと向かう渡り廊下で、いきなり懐かしい声がセシルを呼び止めた。
少し驚いた顔で振り返る。青い勤務服、海軍の軍人である。涼しげな目元の金髪の青年は、セシルよりまだ拳一つ分ほど背が高く、少し年上に見えた。


「カイン……久しぶり」


カインはセシルより三つ年上の幼なじみである。
セシルの身につけている勇ましい将官服を見てにやにや笑うと、「相変わらず偉そうないでたちだな」とからかった。


「仕方ないでしょ、これから陛下の所に行くんだから」


カインの皮肉を気にも止めない様子で、セシルは手に持っていた報告書らしい冊子をわざと重そうに掲げてみせる。


「うわ……報告か。ご苦労なことだな」


「まぁね、でもこれで久しぶりの休暇がとれるから。僕も部下も羽を伸ばせるよ」


「全くお前はよく働くよ」


「うん。お仕事ですから」


中庭から差す春らしい光に目をやる半年ぶりの弟分の横顔に、カインは思わず目を奪われる。赤みの強い茶色の髪が、柔らかく白い頬にかかる。
背が高いのでさすがにもう女性に間違えられることはないが、誰が見てもセシルは美しい若者だった。


「ミシディア……だっけか? 今回の任務」


「そうだよ」


「何でまたあんな田舎に半年も?」


「ちょっと、色々ね」


きれいに笑ってはぐらかす、これ以上は聞けない合図。
内心怪訝に思いつつも、カインはそっけなく望み通りの言葉を返した。


「……ま、とにかく無事でなにより」


「ありがとう」


「いつまで休みなんだ?」


「えーと、一週間くらいかな」


「ローザが喜ぶぞ。顔を出してやれ」


「わかった。ローザにも遊びにおいでって言っといて」


「おう。これから飯食いに行くから、伝えてやろう」


「よろしく」


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