第1章「A Day of spring」

....#3 ガレス中佐


「隊長、このまま陛下のところに?」


軍楽隊のマーチを背にひとり出ていこうとするセシルを、一人の士官が呼び止めた。淡い金髪を額で分けた、人の良さそうな青年である。


「ああ、そうするつもり。陛下も待っていらっしゃると思うしね」


現在空軍において、事実上セシルの副官を務める第一師団幕僚長、エイリ・ガレス中佐であった。


セシルのような出世は異例としても、歴史の浅い空軍士官には若いエリートが多い。エイリもそんな中の一人だった。


「中佐は?」


「僕は、本部に戻って准将達に報告してきます」


「ごめんね、よろしく頼むよ」


副官の肩越しに再会を喜び合う若い部下達の姿が見える。ふと揺れるセシルの視線を捕らえて、エイリは笑った。


「みんなまとまった休みがとれるってんで浮かれてます」


「……半年も休みなしだったもんね」


話しながらきびすを返してドックを出る。


「隊長はどうされるんですか?」


「え、うーん、そうだなぁ……別に僕はこれといって用事もないし、家族がいるわけじゃないし」


「今はどなたか親しくされている方はおられないんで?」


「いないよ、面倒だしね」


「寂しいこと言わないでくださいよ、国の英雄が」


「……エイリまでそういうこと言わないでよ」


むっとした様子でセシルが睨むと、エイリは嬉しそうに続けた。


「あはは、すみません。そうだ、今夜久しぶりに飲みませんか?」


「……わかった。今日はどうせ夜に城で何かあるだろうし、抜け出す口実にさせてもらうよ」


「あれ……会食があるなら別の日でも良いのに……」


「いいの」


大股に歩くセシルと、彼より少し小さいエイリが、少し走るようにして廊下をゆく。


「隊長は人付き合いが悪いですね」


「中佐には悪くないでしょ?」


「はいはい、そうですね」


「じゃあ、後で」


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