第1章「A Day of spring」

....#3 砲撃


予定通り小高い丘に座り、手間をかけて作ったたった二人分の弁当を食べる間も、ローザはすっかり上の空だった。

先ほどの飛空艇を気にしていることは聞くまでもなく明らかであったが、メアリはわざとそれに触れずに、自慢のサンドイッチを広げて妹に勧める。


気になるのは自分も同じだが、面倒に巻き込まれるのもご免だと思った。どうせ何か行事でもあるに違いない。次にセシルに会ったときに、雑談のついでにでも聞いてみればいいだけの話だ。


しかし、どうやらローザにはそんな風に思えないらしい。
最初に渡した好物のツナサンドを、一口かじっただけで手に持ったまま、ぼんやりと風に吹かれている。

「ちょっと! ローザ!」


「え?  あ、ハイ。……えっと……何?」


 少し大きな声で呼んでやっと返事がある。ああ、重症だとメアリは思った。


「何じゃないわよ。ボーっとして」


「ごめん」


あやふやな調子で謝りながらも、すでにローザの心はどこかへ行ってしまっているようだ。仕方ないのでさっさと切り上げて今日は帰ろうと、メアリが思い始めたその時だった。


鋭い光がしたかと思うと、


一呼吸もおかずに爆発音が轟く。
遠い雷のような低い音。
何かが爆発したのだ。


一体、何が?


「…………」


空は青空、雷などであるわけはない。
答えはひとつ。


砲撃だった。


メアリがもう帰ろうと口を開くよりはやく、ローザが弾かれたように立ち上がる。


「メアリ、私ちょっと見てくるね!」


「ちょ……ローザっ!」


ローザは音のした方に駆け出す。止める間もなかった。


「じょ、冗談じゃないわよ! 待ちなさい! 行ってどうなるの!」


姉の声は届いているはずだが、耳には入っていないようでローザは振り返りもしない。


広げたままの昼食と走り去る妹の後ろ姿を代わる代わる見て、しかしのんびり考え込む暇もなく、メアリはせっかく用意した食事を乱暴に片づけて妹を追う羽目になった。


なんという考え無しな妹だろう。
今朝自分が結ってやったお下げ頭を追うが、走っても走ってもローザは遠くなるばかりだ。


日頃運動をしない身体はすぐに悲鳴をあげる。妹の姿がもう見えないことを知り、諦めて立ち止まる。苦しい息をゆっくり整えてから、ローザが消えた高原の街を見やった。


(……馬鹿……)


まさか放って帰るわけにはいかない。
煙を上げるミストと、慌てたせいですっかりめちゃめちゃになった弁当とをかわるがわる眺めて、メアリは深くため息をついた。



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