階段を降りてゆく。重い、父の、軋む足音。 月は沈み、鳥たちまだ夢の中……夜明け前。 時々父はこういう時間に起きだして、どこかへ出てゆくことがあった。隣の部屋で眠る息子を起こさぬよう彼なりに気を使って静かにしていたようだが、どうしてだかはっと目が覚めてしまう。そしていつも、遠ざかる父の気配に、わけもなく不安になるのだ。
寝床を出てドアを開け、おそらくは古い海軍のコートを羽織って階段を下りる父をつかまえ、どこへ行くのかと尋ねてみてももちろんよかった。 彼がすぐに戻ってくることはいつもちゃんとわかっていたはずなのに、どうしてあんなに恐ろしく感じたのだろう。まるで、ふらりと出てゆく父が、自分を捨てていってしまうように思えてならなかった。
「……………」
目が覚める。 |