緋色に染められたバロンの軍旗を、最近よく見る。 毎日、新しい部隊が結成されては戦地へと旅立っていく。戦の相手は大国ファブール。前線は海を越えた遠い場所にあるという。
当然だが、王に会える時間はめっきり減ってしまった。もう何日も顔を見ていない。
あの赤い軍旗、陛下を守る兵の旗。 今、役に立ちたいのに。 「……陛下、セシルです」 夜、少し緊張した面もちで半月ぶりに王の私室のドアを叩く。久しぶりに時間が取れるからと言付けがあったのだ。 「良い、入れ」 「失礼します」 「……なんだ、他人行儀なのだな」 大人達がやるように戸をしめて頭を下げたセシルに、王は少し残念そうに言った。 「陛下」 「幼い頃は可愛かったぞ?」 「……すみません」 「冗談だ、セシル。そなたも大人になった証拠であろう」 王は夜もあまり部屋のあかりをつけようとしない。今夜も部屋は静かで、暗かった。 「戦は、長くなるのですか?」 「興味があるのか?」 「いえ……陛下がお忙しそうなので、心配です」 「案ぜずとも良い……近頃は剣術もよく学んでいるそうだな」 「強く、なりたいので」 「そうか……」 「…………陛下……」
疲れのみえる王の横顔に、胸が痛む。 「そなたには力がある。幾千の兵にも匹敵する、大きな力だ」 未だ口にしたことのない願いをなぞるように、王は跪きセシルの目を覗き込んだ。 「私のために、働いてくれるか?」
王のため、あの赤い軍旗の下で。
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