「今宵は嵐だな」
ぽつりとそう言った、王の背中は最近厳しくなった。あんな事件があったのだから無理もない、けれど割り切れない違和感にセシルは目をこらす。沈黙はとめどない雨音がたやすく埋めた。
闇夜に灯りもつけず佇む王。中庭の水銀灯が窓に滲む。
朝が来て、陛下がこちらを向いてくれたら、この違和感は消える。 陛下は陛下だから。 けれど。
「陛下」
特にこういう雨の日はいやだ。遠くを見る陛下の後ろ姿はもっと嫌。 別の人のように思えて恐ろしいから。