「あー もう、毎日おなじのばっかり!」

「こらローザ、ごちそうさましてからにしなさい」

不満そうにフォークを置いて席を立とうとしたローザを、姉のメアリがたしなめる。

「はーい、ごちそうさまぁ」

ばたばたと二階へ駆け上がっていく少女のさまを、セシルは口をつぐんで眺めていた。ここのところ、夕食はファレル家でとることになっている。王から直々にに頼まれたことだ。 もともと大人びた子供だったメアリは、たった一月で十年も年をとったかのようにみえる。彼女は妹の去った食卓を悲しそうに見つめて、それから、いつも悪いわねとセシルの方を向く。

「あたしは母さんの方をみてくるから、セシルちゃん、ローザの相手してやってくれる?」

「はい」

バロンの秋は豊かだが短い。忍び寄る長い長い冬の影が、北風となって窓を叩いていた。



「ローザ、いい?」

「はぁい、いいよ」

部屋に足を踏み入れると、甘ったるい花の香り。見ると、そこいら中に花、花、花。真っ白の薔薇ばかり、供花であるのは一目でわかる。ローザは退屈そうに寝ころんで、足をばたつかせていた。

「ねぇ、すごいでしょ。セシル、毎日お花が届くの。こんなにたくさん。かあさまは、いらないんだって。こんなにきれいなのに」

「ローザ……」

今はもう腰まである巻き毛が、肉付きの薄い背中を覆い隠して、黒いワンピースのローザはまるでよくできた人形のようだ。

「とうさまは、よっぽど良いことをしたのねぇ。みんなに私が誉められるの」

「…………」

「はやく帰ってきたらいいのにね、とうさまはこのお花、好きなのよ」

にこにこ顔で呟くローザにかける言葉がみつからない。あの日、震えながら待った自分の元に陛下は帰ってきたが、彼女の父はもう帰らない。クライヴは大丈夫だと言った。全然大丈夫なんかじゃないじゃないか。なのにどうして。

「ローザ」

「んー?」

やっぱり何も言えやしない。大丈夫なんかじゃない。なのにどうしてクライヴはだいじょうぶだと言ったんだろう。

「どうしたの? セシル、こわいかお」

「え……? あ、ごめん」

そして、唐突に悟る。

「だいじょうぶ」



これは、嘘なんだ。

うわべだけのいい加減な虚勢。ほんとは全然負けそうでも、泣き出しそうでも。

クライヴの笑い顔が頭をかすめる。死ぬってこと、それは、もう会えないこと。それはたぶん、真っ暗闇の過去の中に埋もれている別れ。ぜんぜん、大丈夫じゃない。

「ねぇセシル見て、こっちのお花、枯れちゃうかなぁって思ったけど、カラカラでもきれいなままなのよ。まだ飾れ……」

「やめなよ!」

「え……?」

「……あ……」

大きな目がみるみる潤んで、やがて小さな肩が震えだす。大きな声を出すつもりじゃなかった。めまいがするほどに自己嫌悪……だけど、このまま彼女の泣き声を、廊下の奥の母親に聞かせてはいけない。ローザの隣に座って謝りながら背中を撫でた。呪文のようにつぶやく言葉は、

「だいじょうぶ」

だいじょうぶじゃなくても。



次の日も、また次の日も、不慣れなメアリの夕食はシチューばかり。時々、カインとグレアムが手伝いに来る。シドも来る。ローザはいつも不満そうに父を待っていて、マリアは部屋から出てこない。誰も、腫れものに触るように言葉を交わす。ローザだけは夢の中にいるように笑う。彼女は死を知らない。

息が詰まりそうな不協和音のなか、今日もローザのごちそうさまの声がした。







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