第2章「ESCAPE」
....#15 ダムシアン
ダムシアンは、中央大陸の中ではまだ新しい王国である。 砂漠に位置しているにも関わらず水不足にならないこの国の都は、世界一澄んでいるといわれているロチェスター湖のほとりにあった。 この湖それ自体が水のクリスタルの恵みゆえであると考えられている。そのため、ダムシアンの人々はクリスタルに対する信仰が特に厚かった。 朝焼けの名残の中、汽車はゆっくりとダムシアン駅に入り、やがて停車する。開いたドアからは眠そうな人々がぞろぞろと出てくる。出迎えの人もいるので、早朝だがごたごたと人が多い。ローザたちもその中にまじってホームに降りた。肌に当たる久しぶりの外気が冷たくて心地よい。予想よりはるかにここの朝は涼しいようだ。 リディアはまだまだ寝足りないようで、ぼんやりしたままローザの後をついて歩き、カインは相変わらず興味なさそうな顔で周りの人たちを眺めている。 アンナはホームに降りるなり、そわそわと婚約者の姿を探しはじめる。しばらくして人混みのなかに淡い金髪の青年を見つけると、アンナは荷物を置いて走り出した。 「ギルバートっ!」 ギルバートと呼ばれた青年は、アンナの声に振り向くと、走ってくるアンナに少し面食らいながらも、嬉しそうに目を細めた。 「アンナ!」 アンナの婚約者は少し優しすぎるくらい繊細な顔立ちをした青年だった。セシルのように中性的な雰囲気とはまた違う、まるで少女のように儚げな印象を与える。少ししか背丈の変わらないアンナと手を取り合い、額をくっつけて喜び合う様はなんだか兄弟のようにも見えた。 「アンナさん……よかったねえ」 「うん」 ローザとリディアはなんだか自分たちまでうれしくなりながらその様子を見ていた。 (いいなぁ、こういうの……) 重い気持ちでバロンを出てきたローザにとって、こういう幸せそうな場面を見るのはとても嬉しかった。 しばらく二人で話していたアンナだったが、やがてギルバートの手をひっぱってローザ達の所に駆け寄る。 「みなさん! 紹介します。ギルバートです」 「……はじめまして」 唐突で驚いたようだったが、ギルバートは柔らかく笑って挨拶した。元気で人なつっこいアンナとは、対照的におとなしい印象をうける。 「ギルバート、こちら、汽車で一緒になった人たちで、ローザちゃんとカインさんとリディアちゃん。仲良くなったのよ。式に出て下さるって!」 「わぁ、それはうれしいです。ゆっくりしていって下さいね」 「そうだわ、ところでみなさんここでの宿はどちらです? 送りますよ」 思いついたようにアンナが言った。だが、泊まる所など決めてくるヒマがあるはずない。 「それが……これから探すんです」 苦笑しながらローザが答えると 「ああ、それなら城にお越し下さい。アンナがお世話になったみたいだし」 ギルバートはさらりとそう言った。 「え、あ、それはどうも……って、おしろ?」 訳が分からずにローザはしどろもどろになって聞き返した。育ちの良さそうな人だとは思ったが、話を聞くとアンナの婚約者ギルバートは、この国の王子だと言うのだ。 |