第2章「ESCAPE」

....#34 思い出の影


「セシル! セシル!」

「ああ、ローザ、久しぶり」

「あ、あの……怪我したって……大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ、心配いらない」

「またすぐ行っちゃうの?」

「うん……そうなるね」

「どうしてもセシルが行かなきゃ駄目なの?」

「ローザ……」

「だって……」

「心配しないで、ちゃんと帰ってくるから」

「絶対だよ?」

「うん」


闇の向こうで戦いのおとがする。固い靴音、金属音、怒号、悲鳴……そして、血のにおい。ただ恐怖に身を凍らせ、ここにあの音が来ないようにと願う。

けれど、ああ、

ここで終わりなのだろうか。

セシルがここに居て、ダムシアンを攻撃している。自分はここに今隠れていて、もしかしたら、兵達がここに来たら、死ぬのかもしれない。

頭では理解しようとしても、実感がついてこなかった。
これがつまり戦争なのだとしたら、彼は軍人。
ありえること、無理もないこと、でも……!

「ほら、ローザ」

「え? え? どうしたの?」

「似合うよ」

「…………」

「あはは、授業で摘んできたの。薬草だよ、これ」


セシルを思う時、彼はいつも優しく静かに微笑んでいる。整った顔立ちに近い目線、一つ年上の幼なじみ……大好きなセシル。

間違いであって欲しい。
ミストの時は助けに来てくれたのだから、今度だってきっと何かの間違いに違いない。そう思いたい。ねぇ、セシル!

同じことを何度考えてみたところで、セシルが答えてくれるはずもない。微かな期待と圧倒的な不安に翻弄されるまま、息を潜めてうずくまり、ただ戦いが終わるのを待った。






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