第2章「ESCAPE」
....#3 深夜の電話
『あ……ごめん、起きてた……?』 「馬鹿、寝てたに決まってるだろ」 『あぁ、そうね。ごめんなさい』 「なんだ、どうした?」 『うん……ごめん、特に、何でもなかった』 「…………なんだよそれ、何かあったなら言ってみろよ」 『うーん、まぁ、いいわ。ありがとう。声を聞いたらどうでも良くなっちゃった』 深夜の電話はメアリからで、明らかに何かあったらしい彼女が勝手に納得して電話を切ってしまった後も、カインは当然のごとく寝付けずに夜を過ごした。 だいたい、一度起こされたら次に眠気がくるまでにとても時間がかかるのだ。いつでもどこでもすやすや眠れるセシルなんかが羨ましい。 誰に文句を言えるわけでもなくごそごそ寝返りを打っているうちに外が白んでくる。 全く、また寝不足だとうんざりしながら目を閉じる。柔らかく屋根を叩く春の雨音を子守歌にやっと浅い眠りについたのは、朝が来る少し手前のことだった。 そして、目が覚めたのは午後遅く、夜明け前からの雨がまだ続いていた。ああ、結構眠れたじゃないか。そして、だいたいこういう目覚めの朝はまだ眠い。 家を出るのが億劫に感じられたが、このまま昼までだらだら自宅で過ごしてひとりの昼食を用意する方がもっと面倒だ。午後からは軍部に顔を出すつもりだったが、昨夜の電話のこともあるので、ひとまずファレル家に寄ることにして家を出た。 |