第2章「ESCAPE」

....#61 セシルの領域


「諸君、もう知っている者も多いと思うが、今月から飛び級にて、三年生のセシル・ハーヴィが編入する。彼の本校における成績については説明するまでもないだろう。

皆、ハーヴィ中尉に負けないよう、競い合って良い軍人となるよう努力して欲しい。
……では、ハーヴィ君、こちらに」

「……はじめまして」

「ガレス君、委員長として訓練のことや他の者のことなどハーヴィ君を指導してやってくれ。彼はまだ十三才だ。年の離れた君たちとは色々と大変なこともあるだろう。よろしく頼む」

「はい」

「では、今日のところは解散してよし」



「あの……はじめまして、噂には聞いています。ハーヴィ中尉」

「はじめまして委員長、お世話になります」

「エイリです。エイリ・ガレス」

「では、エイリ……校内では、できれば僕のことはセシルと呼んでください。その方が気が楽ですから」

「はい……セシル」



セシルのことを見ていると、彼のことを天才というありきたりの言葉で評したくなってしまう。そんな、どこからどう見ても完璧な少年だった。

美しく、強く、賢く、だが図に乗らず慎ましやかで、魅力的だ。いつの間にか六つも年下のセシルに憧れにも似た感情を抱くようになっていた。

だが同級生達にとっては妬ましい存在であったのだろう。セシルはいつまで経っても一人で登校し、授業を受け、時間が来ればさっさと帰っていく。おそらくは耳に入っていたであろう口汚い陰口の類にも興味を示そうとはせず、話しかけられれば誰にも笑顔で応えた。

誰のことも本当には近づけない孤独なセシル。
自分も結局、彼の領域に踏み込むことはできなかったのだろうか。



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