第2章「ESCAPE」

....#52 谷底は深く暗く


「セシル……」

ローザを助け起こしながらカインが途方に暮れた表情でセシルを見た。セシルは、少し困ったような顔でその目を見つめ返す。 カインの服の袖にしがみつくようにして顔を伏せているローザの、おそらく痛々しく泣きはらした顔はセシルからは見えなかった。


「…………」


言うべき言葉が見つからない。


「セシル、お前……」


「カイン達は、マリアさんの所へ?」


「あ……ああ、そうだ。リディアをフブリに預けようと思ってる」


カインは、吐き出すような調子でそう言った。


「そう……」


セシルはそっと息をついて目を伏せる。
それは賢明な判断であろう。だが、不幸にもそのことはセシルを不安にさせた。


ファブールには、火のクリスタルが存在するのだ。





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