第2章「ESCAPE」

....#4 招かざる来訪者


翌朝、遅くなってもベッドのなかでうとうとしていたローザは、階下から人の言い争う声を聞いて、はっと目覚めた。

(なんだろう? 声……メアリの?)

心配になってそっと、音を立てないように階段を下りる。リディアはまだ眠っていた。玄関の近くまで行ってこっそり外を見ると、昼食の用意をしていたらしいメアリがエプロン姿のままで立っていた。

その前には、黒い色の服を着た男の人らしい人が二人。あれは見慣れたバロン禁軍の軍服だ。

(軍のひと……)

「だから、知らないっていってるでしょ!」

「隠すと良くないですよ? ファレルさん」

「もう! しつこい人たちね! 私が隠す理由がどこにあるのよ!」


一週間前の恐怖と緊張が蘇る。

(リディアちゃん!)

メアリの言葉を聞いて、ローザはそのまま早足に二階に戻るとリディアの所に急いだ。

軍はやはり召喚士の生き残りを捜しているのだ。
見つかって捕まったら一体どうなるのだろう。

先日の出来事を思い出すと、つい最悪の事態を考えてしまう。そんなことは絶対に避けたかった。

(だめよ! そんなの!)

部屋に戻ると、リディアは起きていた。階下の様子がおかしいことに気付いているらしい。

「あ……おねえちゃん……?」

「しっ、静かにしててね。大丈夫だから」

ローザの顔を見て口を開きかけるリディアのことばを制止する。彼女の言葉の端の緊張をを感じとったのであろう、リディアは不安げな目をローザに向ける。

「だいじょうぶよ?」

恐がらせないように出来るだけ平気そうな顔をする。だけど、不安なのはローザも同じだった。軍から追われるということにリアリティは湧かないが、自分たちのような一般人にそれがどういうことを意味するのか、理解はできるつもりだ。

だが、今はとにかく玄関口のメアリにまかせて、彼女らは薄暗い部屋で息を潜めているしかできない。

しとしと降り続く雨のせいで、雲は厚く、しめった空気はなんだか重苦しかった。階下では、まだメアリが兵隊相手に怒鳴り散らしている。


「しつこいったら、しつこい! 嘘なんかついてないから帰って!」

「じゃあ、家の中を調べさせて貰っても問題ありませんね?」

「大ありよ! そんなの不法侵入よっ!」

「陛下からの直々のご命令なんですよ?」

「…………」

(メアリ……!)

(どうしよう、メアリは悪くないのよ。私が……)

出ていこうか、一瞬そう思った。その時だった。

「おい、なにをしてるんだ?」

「カイン!」

(カイン?)



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