第2章「ESCAPE」

....#36 平和王


「そなたはバロン王の何だ?」

低く、王は問う。

「あなたには関係がない」

青年は剣を握る手に力を込める。

「哀れな……人形のような目をして、私を殺めるか」

「…………!」

「バロンのセシル。
 お前は永遠に、人にはなれぬ人形ぞ」


王はそう言って静かに手を広げる。殺せといわんばかりに、笑みさえ浮かべて。


「ここはダムシアン、決して砕けぬ砂の国。

 心を持たぬ侵略者などに、奪われるものは何もない!」


武器を持たない平和王は、その目に挑むような光を宿らせ、侮蔑の笑いと共に言い放った。


「殺すがいい!」


その言葉と共に、セシルの中で何かが弾ける。
目の前が一瞬真っ白になり、それから赤くなり、何かを叫んでいるらしい自分の声も聞こえなくなる。



 なんだ?


 これは。



目の前に、首のない王の体があった。自分を見据えていたあの菫色の目も、誇り高い笑みを浮かべて自分を人ではないと言った口ももう無い。


だが、まだ見られているような気がした。あの目が。


お前は永遠に、人にはなれぬ人形ぞ

お前は永遠に

お前は永遠に

お前は永遠に


「…………黙れっ!」


こだまするその声をかき消そうとするように、セシルは無我夢中で動かぬ王の体に剣を突きたてた。






Home | Back | Next