第2章「ESCAPE」

....#1 止まない雨



ここ何日も、雨が止まない。

あれから一週間。
ミストの事件は翌日の新聞で国からの簡単な発表があっただけで、それ以上大して騒がれることはなかった。

ミスト自治議会は解散、予定どおり中央からの官吏が派遣されたようだ。
翌日の朝は驚くほどに静かだった。

「ローザ、あんた、夜更かしばっかりして大丈夫なの?」

「…………」

もう夜半を随分と過ぎている。職業柄夜が異常に強いメアリは、難しい顔で新聞を睨むローザを横目に、あきれ顔で雑誌をめくる。ローザは憤慨した様子で顔を上げた。

「ねぇメアリ、おかしいわよ」

「何が?」

「だって、どの新聞にも雑誌にも、『自治権放棄』って。そんなこと、ステラさんは言ってなかったよ」

「……色々ややこしいんでしょう。あんた、外でその話べらべら喋らないでね」

「わかってるわよ」

「そう? なら良いけど……心配ね」

「……うん」

休暇中のはずのセシルもあれから姿を見せない。

窓を叩く雨の音を遠く聞きながら、ローザは二階へ上がった。
リディアをさっきやっと寝かしつけたところなのだ。大分落ちついてきたのだが、夜になるとあの日のことを思い出すらしい。はじめのうちは毎日のように夜中に起き出して、泣きながらローザの部屋までやって来たのだった。

リディアを起こさないように気をつけながら、小さなランプをつける。
柔らかく広がった淡い薔薇色の光が、幼い頬を照らした。

(……リディアちゃん……)

涙の跡に胸が痛い。どうしてこんな悲しいことがこの子の身に降りかかるのだろう。眠るリディアを前に、ただそう思った。
隣人の苦しみには触れることはできない。誰かに話せば、偽善だと笑われるのかも。
けれど、それはもどかしく、悲しいことだった。



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