第1章「A Day of spring」

....#4 ローザとマナ


士官候補生と呼ぶにはまだ少し幼い印象の少女達は、もうすっかり休暇の空気に包まれた放課後の廊下を、笑いあいながら駆けていく。長い歴史を感じさせる深い飴色の木の校舎は、そんな彼女らを静かに受け止めていた。


「ま、ほんとに空軍目指すんだったら休暇中私が勉強見てあげるわよ」


校舎を出たところで眩しい正午の日差しをまともに受け、光を背にしたマナが振り返って笑った。それを聞いたローザは飛び上がってマナの腕に抱きつく。


「ほんと 助かるー!」

「私もさぼって奨学金うち切られたらカデットに居られないしさ、お互いがんばんなきゃ。……その代わり、またさ、大佐が居る時にでも呼んでよ。飛んでくから」


マナは悪戯な計画を話すかのように冗談めかした低い声で耳打ちする。それを聞いたローザは半分呆れたような目で友人の顔をのぞき込んだ。


「うわ、相変わらずすごいファイトね。あの幽霊軍人のどこがいいわけ?」


「そういう言い方は失礼でしょ」


「だって、仕事が無いとかなんとか言いながら実はさぼってるだけなんだから!
 マナが好きになるとは思えないなぁ……」


「だからそんなんじゃないって! ……お話が面白いの。相談とか、乗ってくださるし!」


「ふーん……あの無愛想なカインの話が『面白い』ねぇ。なんか理解できないわ」


「いいわよ別にローザに分かってもらえなくても……で、あんたはどうなのよ、全然そういう話聞かないけど?まさか麗しの幼なじみ様がお相手だなんて言わないでしょうね」


「まっ、まさか! 年に何度も会わないって言ってるでしょー!」


「あははは、冗談よ。どうしてそんなに向きになるのかしらね、ローザは」


「もう!」


「でもさぁ、あんた勉強はいまいちだけど実技じゃ輝くし、結構目立ってると思うんだけどなあ……」


「ええっ 私?」


「……とにかく、今夜また電話でもするから。休暇中、暇あるんでしょ?」


「うん、わかった」


花が散り終わった後の桜が、鮮やかな青葉を空へと広げている。
くすくす笑いながら早口に喋っていた二人だったが、校門を出るところでマナとローザと逆方向に足を進め、すぐにくるりと振り向くとにこやかに手を上げた。


「良い休暇を!」



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