第1章ミスト編

....#7 悲しい予感



砲撃の音が大きくなった。

軍人達が玄関から去ってから、どれくらい経つだろう。
おそらくはまだ数十分。
しかし息を潜め恐怖に震えて待つ者達には、二時間にも三時間にも思えるのだった。

爆発による衝撃が、薄い窓ガラスをそのたびに揺らす。
窓際に立ったままステラを待っていたリディアは、響く砲撃の音の中に苦しむ母の姿を一瞬、見たような気がした。

「!」

幼い心にいい知れない不安がよぎる。
母はどこにいったのだろう。ちゃんと帰ってきて、くれるのだろうか。


「おかあさん?」


それに答えたのはここに居ない母ではなく、彼女自身の直感だった。

理由はなかった。
ただ母が帰ってこないような気がした。
怖かったからそう思いこんだのかもしれない。
だがその直感を疑える理由もなかった。


「…………おかあさん……!」


母が帰ってこない。
恐ろしい考えがリディアの心を支配する。


「ちょっと……!リディアちゃん!?……だめよ……っ!」


娘の止めるのも聞かず、リディアは勢いよく窓を開けた。
平屋建ての屋敷で、彼女らが隠れていたのは庭に面した一階の部屋。
止めるまもなくリディアは窓から飛び降り、つんのめりながら煙のたちこめる街の方へと走っていった。
リディアが開け放った窓から、煙臭い空気が部屋に入り込む。


「リディアちゃんっ!」


娘は身を乗り出して叫んだが、それ以上リディアを追おうとはしなかった。
彼女にはどうすることもできなかったのだ。
娘と同じように危険をおかしてまでリディアを追うものは無く、みな一様に心配そうに顔を曇らせるだけである。

うす暗い部屋に、かすかに西日がさしていた。
もうすぐ夜が来る。



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