第1章ミスト編

....#14 夢



緑の霧の中を歩いていた。
ここはどこだろう、あまりにも霧が深く、何も見えない。

素足を伝って、柔らかくみずみずしい苔の感触が伝わってくる。

深い森のにおい。
どこだろう……ミストの林じゃない。もっと古くて大きな森。

リディアは目を凝らした。行く手に誰かいる。


「誰?」


「……そなた、リディアか」


声と共にふっと姿を現したその人は、透けるような白い肌をして、霧と同じ色の髪をした人だった。
こちらを見る細い目は、いっそう深いグリーン。

知らない人なので驚いたが、低く艶やかな声が心地よくて、リディアはこくりと頷く。


「そうか……大きくなったな」


男はそう言って目を細める。

冷たい風貌だったが、そのまなざしは優しいように思えた。
そして、悲しいようにも。


「あなた、誰?」


「いずれ解る」


「?」


男はそれ以上何も言おうとはしなかった。
くるりと背を向けて歩き出す。

みどりの髪が霧に溶けるようにふわりと揺れて、次の瞬間には男は消えてしまった。

名を知らないので呼ぶこともできない。

不思議な夢だった。



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