君といつか歌ううた
after cecil21








歌をうたっていた。
なんの歌だったかは思い出せない、けれど懐かしい歌。
僕はとても明るいところにいて、誰かと手をつないで、思い出せない旋律を口ずさむ。

それはとても優しい歌で、それはとても優しい午後で。
幸せな僕は、海を渡る鳥のように遠く遠く。


ベイガン・アリスン率いる第十五騎兵部隊に生還者が居たことは、そのような言葉を決して使いたがらない陸軍兵の誰もが、奇跡だと口にして憚らない出来事だった。
退路を断たれた戦局だったにも関わらず、死者はむしろファブール軍の方が多かったと伝えられている。


しかし、あの日バロン軍が前線の補給港を失ったことは、その後の戦いに決定的な影を落とすことになった。思えば、あの日からバロンの敗戦は運命づけられていたのかもしれない。


「セシル様」


目醒めてはじめに目に入ったのは暗い天井の消えたシャンデリア。その場所がバロン城であることに気がついたのは、自分を呼ぶルビン・ハイムの声が聞こえてからだった。


「ハイム先生……」


「気が付かれたか」


痛いと感じるより以前に、体がどこも動かなかった。どうやら体中包帯だらけのようだ。どこを怪我したのだろうと無理に動こうとすると、慌ててハイムに止められた。自分がかれこれ一週間も意識不明であったことを聞かされて、前は戦場にいたことを思い出す。


「…………戦況は?」


「最悪じゃよ。あんな所へあなたを戻したくはないわい」


前線基地の様子がふと思い出されたが、また引きずり込まれるように眠りが訪れる。目を閉じても少しも暗くない、不思議な眠りだった。やっぱり歌がきこえる。


緑の森を歩く。柔らかな日差しが降る。
隣を歩く君とうたを歌う。これは過去?
それとも未来?


夢はいつだっていい加減で都合が良く、甘ったるくて嫌になる。僕が期待してもそれはきっと過去でも未来でもないのだろう。甘い雲の浮かぶ空を、たゆたうように流される。いっそ醒めなければいいのに。


ただただ安らかで、幸せな、それは君といつか歌ううた。







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